転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
13.彼の過去
どうやら紗良には、好きな人がいるらしい。
その現実を受け止めるのが、こんなにもキツいと思わなかった。
いま俺の視線の先で黙々とパソコン作業をしている紗良を見つめながら、あの日のことを思い出す。
俺はあの日、イノッチから紗良の話を聞いた瞬間から余裕がなくなって、気付けば会議室で紗良を問い詰めていた。
何が嫌って、勿論紗良に好きな人がいることもそうだけど、イノッチが知っていて俺は何も聞かされていないのが悔しかった。
そのせいか、勢いで自分にも好きな人がいるって暴露したのはいいものの。その後紗良が放った“人の恋愛話に興味はない”の一言で、完全に怯んだ。だってそれは“俺に興味がない”という意味に捉えられるから。
危うく紗良が好きだと言ってしまいそうになったけど、あの時紗良が遮ってくれてよかったと思う。
紗良には他に好きな人がいて、しかもこの先お見合いの予定まで入っている。それなのに俺の気持ちを押し付けても、困らせるだけだから。
でも、紗良にも好きな人がいるというのに、この関係を解消してその男のところにいけよと言えなかった自分の器の小ささに、心底呆れた。
紗良は表情が変わらないから、何を考えているのか分からない。あの日も表情ひとつ変えなかった。
あれから変わらず俺の隣にいてくれるけど、本当は早くこの関係を終わらせたいと思っているのだろうか。