転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「専務、お久しぶりです。突然すみません」
重い足取りで応接室に入れば、既に待機していた白鳥さんと、その隣にいるひとりの男の視線が同時に此方に向いた。
この男、確か花火大会の日も白鳥さんの隣にいた。恐らく彼女の秘書か何かだろう。
あの花火大会の日から今日まで、結局白鳥さんに会うことはなかったけれど。相変わらず甘ったるい声を放つ目の前の女は、瞬きをする度にバサバサの睫毛を揺らしながら、上目がちに俺を捉える。正直、その睫毛が苦手だ。
「本日はどうなさいましたか?」
向かいの席に腰掛け、早速要件を聞き出そうとする俺に、白鳥さんは笑顔を保ったまま口を開く。
「シンプルに、専務にお会いしたかったのと」
「……」
「あと、お互いにとって運命の日が迫っているので、出来る限りアピールしておこうかと」
白鳥さんがそう言ったのを合図に、隣の男がバッグからクリアファイルを取り出す。それを受け取った白鳥さんはドヤ顔でファイルをテーブルの上に置くと、そのまま俺の方に差し出してきた。
「これはまだ九条社長にもお見せしていない、弊社の大口クライアントのリストです」
目の前に置かれた書類に、ゆっくりと視線を落とす。
そこには、誰でも知っているような有名な会社がずらりと並んでいた。