転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「わたくしを選んでいただけたら、この会社が手に入るといっても過言ではありません。九条グループに貢献出来ること間違いないです」

「……」

「それに、色々なこと(・・・・・)を踏まえても私がいいかと…。本日はそれを伝えに参りました」


是非、前向きに検討していただきたいです。と続けた白鳥さんは、自信たっぷりに口角を上げる。

暫くそのリストを眺めたあとゆっくりと顔を上げれば、バサバサ睫毛のタレ目がちな目と視線が絡んだ。


「ご丁寧にありがとうございます」


ここで働き初めてから習得した営業スマイルを貼り付けながらそう放った俺は、テーブルの上のクリアファイルを手に取る。


「さすが白鳥さんですね。抜かりないというか、なんというか。でも残念ながら、こういうアピールを私にしても意味はないですよ」

「…え?」

「相手を選ぶのは私ではないので、こういう駆け引きは父か兄にされた方がいいかと。あ、そういえば今日は兄がいるはずなので、こちらに連れて参りますね。少々お待ちください」


つらつらと矢継ぎ早に言葉を放てば、今日初めて表情を崩した白鳥さんは「待ってください」と焦りを孕んだ声を出す。


「選ぶのは私ではないって…専務はそれでもいいんですか。専務が一言、私と結婚したいとおっしゃってくだされば…」

「政略結婚ってそういうもんでしょ。だから白鳥さんも、裏で色々と細工してるんですよね」

「さ、細工って…私は純粋に専務と九条グループのことを想っていて…」

「ではそれも含め、直接兄にお伝えください。私は会社のために結婚するだけで、それ以外何も無い。相手が誰になっても同じですから」


紗良じゃないと、意味がない。そう言えたら、どんなに楽か。


小さく息を吐いた俺は、席を立ちながら「兄を連れて参りますね」と会議室を後にする。そしてドアを閉めたと同時、今度は深い溜息をついた。


今までは婚約者候補の前でも、“良い専務”を演じてた。会社にとってマイナスになることは避けたいからだ。

でも今日は、それすら無理だった。

これは完全に八つ当たりだ。そう分かっていてもイライラする。平気で嘘を並べるあの女も、紗良と上手くいかないもどかしさも。

何が俺を想ってるだよ。花火大会の日、俺と紗良が一緒にいたのを目撃して、すぐ親父にチクったくせに。

常にこっちの弱みを握ることしか考えていない、あざとい女。本気で嫌いだ。


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