転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします




さっきから胸がチクチクと痛む。その原因は恐らく、逸生さんと白鳥さんが応接室に入っているから。

中で一体なんの話をしているのだろう。花火大会の日に言っていた、手作りのマカロンでも受け取っているのだろうか。

気になるけど、知りたくない。逸生さんがあの人に笑顔を向けていると思うだけで、胃がキリキリしてくる。

だめだな、私。春には逸生さんと離れなければいけないのに、日に日に気持ちが大きくなってく。婚約なんてしなければいいのにって思ってしまう。

でも白鳥さんは、私の記憶ではとても可愛らしいタイプの人だった。私と違って愛想もあるし、他の婚約者候補と比べて、逸生さんの隣が似合っていたと思う。彼女が選ばれても納得してしまうと思う。

だけど逸生さんには他に好きな人がいるんだよね?なんとなくだけど、今までの逸生さんの言動からして、その好きな人というのは婚約者候補の三人の中にはいない気がする。

でもあの日、逸生さんは“昔からずっと想ってる人がいる”と言った。昔からの知り合い…一体誰なんだろう。まぁ、数ヶ月前に出会ったばかりの私ではないことは確かだけど。


「紗良」


ぼんやりとパソコンの画面を見つめながら逸生さんのことを考えていれば、ふいに名前を呼ばれ、弾かれたように振り返った。

そこには応接室にいるはずの彼の姿があって、慌てて「はい」と返事をして立ち上がれば、逸生さんは私の目の前で足を止めた。

< 195 / 324 >

この作品をシェア

pagetop