転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「紗良、お願い」
じりじりと距離を詰めてくる九条さんは、もう恋人になった気でいるのか馴れ馴れしく私の名前を呼んでくる。
自称ドMの私が押しに弱いことを知っているかのように眉を下げて懇願してくる彼の目を見ていると、危うく首を縦に振りそうになったけれどなんとか耐えた。
「なんで私なんですか?もしかして、この短時間で私のこと好きになりました?」
「いや、何となく面白そうだから」
「お、面白いって…」
さらりと失礼な言葉をかけられ、下からギロリと睨む。けれど彼はそれに怯む様子もなく、柔らかい笑みを浮かべたまま口を開く。
「結婚したら、それこそ彼女なんて作れなくなるし。人生最後の彼女がほしい」
「そういうのは好きになった人にお願いするものですよ」
「俺、今まで誰かを好きになったことないから、そういうのよく分かんない。紗良と同じで、女はいくらでも寄ってくるけど。誰でもいいわけじゃない、俺は紗良が気に入った」
恥ずかしげもなく口説き文句を並べた九条さんは「人助けだと思って、お願い」と首を傾げながら真っ直ぐ視線を送ってくる。
こんなの狡い。若干あざといその仕草に加え“人助け”という言葉を出されたせいか、キッパリと断れなくなっている自分がいた。