転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
もうこれ以上この人達の話を聞きたくなかった。逃げるようにドアの前から去った私は、一度給湯室に戻りお盆を置くと、オフィスにいる百合子さんのところへ急いだ。
「百合子さん…」
「え、なにどうしたの。岬ちゃん顔色悪いよ?」
パソコンの画面から私に視線を移した彼女は、私の顔を見るなり開口一番そう放つ。
「ちょっと頭痛が…」
「大丈夫?!私の可愛い岬ちゃんが体調を崩すなんて珍しい。とりあえず座って、ゆっくり休んで!」
「…あの、お願いがあるのですが。給湯室に用意してあるお茶を、代わりに応接室に運んでくれませんか」
「応接室?あ、いま白鳥さんがいらっしゃってるんだっけ?オッケーだよ、任せて!」
岬ちゃんはとりあえず座ってて!そう言って私の背中を軽く摩った彼女は、急ぎ足で給湯室の中へ消えていった。
先輩に頼んでしまったことに罪悪感を覚えつつ、額に手の甲を当て、溜息を吐きながら俯く。
──本当に、頭が痛くなってきた。
いま逸生さんの顔を見たら泣いてしまうかもしれない。それくらい私にとってショックというか、衝撃的な出来事だった。
今の話、逸生さんには内緒にしておこう。もしかすると誰にも知られたくない過去かもしれないし。
なかなか戻ってこない逸生さんを心配しつつ、寧ろこのまま戻ってこなければいいのにと思ってしまう自分がいる。
「…頭、痛い」
それと同時に心が痛かった。あの女も嫌いだけど、何も出来ない無力な自分が許せなかった。