転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
絞り出したような声で懇願する私に、逸生さんは一瞬驚いたような表情を見せた。そして少し考えるような仕草をしたかと思うと、先程までと違い真剣な顔で静かに口を開く。


「紗良、もしかしてあの女に何かされた?」


どうやら誤解を招いてしまったようで、逸生さんの視線が微かに鋭くなったのが分かった。慌ててふるふると首を横に振れば「だったら、なんでそんな泣きそうな顔してんだよ」と、やっぱり私を心配する彼に、また胸が締め付けられる。


「…私は何もされてないです…でも…」


私が何かされたのなら、まだよかった。目黒さんのように、あからさまに敵意を向けられた方がまだマシだ。

そうじゃないから悔しい。白鳥さんの的が、逸生さんであるから苦しい。


「あの人だけは…」
「私()…?」


あの人だけは嫌なんです。そう念を押そうとした矢先、逸生さんがぽつりと呟いた言葉にハッとした。
完全に墓穴を掘ってしまったことに気付いてしまった。

案の定怪訝な表情をする逸生さんは、既に勘づいているのか「もしかして、なんか変な話聞いた?」と問いかけてくる。


「ごめん、嫌な気持ちにさせたよな」


否定も肯定も出来ず黙る私に、逸生さんは続けて口を開く。何も言葉が見つからず、再び首を横に振れば「どこからどこまで聞いたかしらないけど、ちょっと引いたろ。昔の俺、今と比べ物にならないくらいクズだったから」とへらりと笑った。

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