転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

逸生さんの言葉は、さっきの白鳥さんの話を全て肯定したようなものだった。あっさりと認め、謝罪してくる彼に、怒りすら覚える。


「…なんで怒らないんですか。あの人達、逸生さんのこと…」

「俺が暴力を振るったって話だよな?仕方ないよ、それ本当の話だし。あの人達…というかあの家族、外面はいいけど昔から事あるごとにその話題チラつかせてくるからもう慣れたし。だから紗良も気にしなくて……」

「そんな言葉で片付けないでください」


つらつらと言葉を紡ぐ彼にぴしゃりと言い切った私は、隣に座る逸生さんの方へ体ごと向けて、こんな時ですら笑っているその目を、真っ直ぐ見据える。


「逸生さんが私に言ったんですよ。“言われ慣れてる”なんて言葉で片付けるなって。そんな寂しいこと言うなって」

「……」

「逸生さんはいい男です。この数ヶ月間、ずっとそばで見ていたから分かります。意味もなくそんなことする人じゃないってことも。少なくとも、あの人達に悪く言われる筋合いはないです。あんな、人を見下すような人達に…」

「……」

「逸生さん…あんな女に逸生さんを渡したくないと思うのは、ワガママですか?」


自分の好きな人には、せめて心の綺麗な人と結ばれてほしい。そう願うことは、ワガママなのだろうか。


「紗良…」


涙で滲む視界で、逸生さんの瞳が微かに揺れた。私の名前を小さく放った彼は、ごめん、と呟くと、私を腕の中にそっと閉じ込めた。


「でもその話は事実だから、自業自得なんだよ。昔の俺、まじで沸点低かったから。あの時、殴った男が白鳥の息子っていうのも、うちの会社と繋がってんのも分かってて、1発食らわした…バカだろ」


自嘲気味に笑う彼の背中に手を回す。シャツに皺が寄るくらい強く抱き締め返し「何か理由があったんですよね」と問えば、返ってきたのは「もう忘れた」の一言だった。

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