転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
どうして責められるのが逸生さんだけなんだろう。そもそも逸生さんが荒れてしまったのは、周りの環境のせいでもあるのに。
私は昔の彼を知らないから、何とも言えない部分もあるけれど。彼からこうして話を聞いても、私は逸生さんが悪者だなんて思えなかった。
それに、そうやってもがいてなきゃいけないくらい、逸生さんは苦しんでいたと思うから。
私は友達がいなくても、その分家族が愛情を注いでくれた。家に帰れば笑顔で抱きしめてくれる過保護な親がいた。
逸生さんにはそれがなかったなんて、想像しただけで胸が苦しい。いくら会長や稲葉さん、小山さんという味方がいても、逸生さんにとっての親はふたりしかいない。代わりなんてどこにもいないのだから。
そんな彼の苦労を知らずに、平気で“出来損ない”だとか“馬鹿な息子”という言葉を放ったあの人達を、どうしても許すことが出来なかった。
「大人になった今でも、逸生さんが苦しい思いをするのは絶対に嫌です。あんな女に逸生さんが利用されるなんて考えたくもありません。だから、どうかあの人とだけは結婚しないでください…」
怒りで声が震える。そんな私の背中を優しく撫でながら「うん」と相槌をうってくれる逸生さん。どっちが慰められているのか分からない状況に困惑しつつも、その優しさに甘えて彼の胸に顔を埋めれば、大好きな香りに包まれて、必死に耐えている涙が溢れそうになった。