転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
そんな私の髪をくしゃりと撫で、抱き締める力を強めた逸生さんは、耳元で「紗良、ありがと」と囁く。
「紗良がそうやって俺のために必死になってくれんの、素直に嬉しいよ。でもこればっかりは、正直どうなるか俺にも分からなくて…」
「……」
「ただ利用してんのはこっちも同じだし、俺の親もそんな馬鹿じゃないから会社にとってマイナスになることはしない。白鳥のそういうところも、ちゃんと見抜いてるとは思う。まぁそれも踏まえて白鳥を選んだら、それは仕方ないけど」
「…仕方ない……」
こんな時でも穏やかに言葉を紡ぐ逸生さんは、私が思っているよりもずっと政略結婚に対して前向きで、相手の人間性については、もう諦めがついているのかもしれない。
きっと私みたいな凡人が口を挟んでいい世界じゃない。分かってはいるつもりだったけれど、やっぱり逸生さんのことを思うと、胸が苦しかった。
「…そうですよね。変なこと言って困らせて、すみませんでした」
「こっちこそ心配させてごめんな。紗良はやっぱ優しいわ」
優しいわけじゃない。ただ逸生さんのことが好きなだけだ。もしこれが逸生さんじゃなかったら、ここまで必死にはならなかったと思う。
でも、逸生さんの意志はこんなにも強いのに、不純な理由で感情的になって困らせてしまったことを、少し後悔した。