転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「てか、俺がいまこうして余裕を持って過ごせんのも、全部紗良のお陰だから」
「…え?」
「紗良がいてくれて心強いよ。紗良がずっと秘書でいてくれるなら、誰と結婚しても頑張れそうな気がするし」
「……」
思わず口を噤んでしまったのは、さすがにこのタイミングで“春になったら辞めます”なんて言えなかったから。
最初の頃、1年後に私はまたニートになるのかと問えば、逸生さんはこのまま働き続けてくれていいと言った。そのままその話を流していたから、逸生さんは私が会社を辞めようとしていることを、まだ知らない。
早めに伝えた方がいいのは分かってる。だけど言うタイミングがなかなか掴めず、ずるずると時間だけが流れてしまった。
それに私自身、心の奥では逸生さんと離れたくないと思っているから、まだその言葉を口にする勇気はなかった。
「──紗良」
ふいに名前を呼ばれ、逸生さんの胸に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
そうすれば、優しく目を細める逸生さんと至近距離で視線が絡んで、私の後頭部に添えられている彼の手にそっと力が加わると、次の瞬間には唇を塞がれていた。
逸生さんの背中に回している手に力を込める。縋るように私からも唇を押し当てれば、その直後下唇を甘噛みされたかと思うと、啄むような甘いキスに変わった。