転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
角度を変えては何度も落とされるキスに、無意識に鼻にかかったような声が漏れた。その直後、追い打ちをかけるように噛み付くようなキスに変わり、一瞬にして思考が停止した。
こういうキスは久しぶりなのに加え、相手が逸生さんだと思うと途端に身体に熱が帯びる。しかもそれが驚くのど気持ちいいから、頭が真っ白になって一気に力が抜けた。
息継ぎをしようとしても、後頭部にある彼の手がそれを許してくれない。かろうじて彼の背中に回していた手は、一瞬にしてソファに縫い付けられた。
気付けばソファに押し倒されていて、ゆっくりと瞼を上げると、熱を孕んだ瞳が私を見下ろしていた。
「…い、つきさ…」
肩で息をしながら愛しい名前を呼べば、ゆっくりと伸びてきた手が私の頭を撫で、額にキスが落とされる。
「なんで嫌がんねえの」
「…え?」
ぽつりと呟かれた言葉は、上手く聞き取れなかった。
意識が朦朧とする中ソファに縫い付けられている手を握り返せば、困ったように笑う彼と視線が絡む。
「ごめん、体調悪いのに」
「……」
逸生さんの一言で、一気に現実に引き戻された。
そうだった、私、体調不良で早退したんだった。それなのに、身体はこの先を望んでた。寧ろ頭痛なんて疾うに治ってた。
続き、してください。そう喉まで出かかった言葉は、声になる前に飲み込んだ。
心配そうに私を見つめる彼に言いづらかったし、もしかしたら遠回しに拒絶されたのかもしれないと思ったから。
「今日は早めに寝ような」
そう言ってもう一度私の頭を撫でた彼は、ソファから降りると煙草を片手にベランダに出てしまった。
ひとりになった部屋で、天井を見つめながら溜息を零す。
こんなに近くにいるのに。一応恋人でもあるのに。
これ以上の距離の縮め方が分からない。寧ろ縮めるべきではないのかもしれない。
もうこのまま春になるのを静かに待つしかないのだろうか。