転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…それは、本当に1年だけですか?」
「うん」
「でもそれって、1年後に私はまたニートになるってことですよね」
「いや、紗良さえ良ければ会社で働き続けてくれて構わないよ」
現在27歳の私が、1年後にまた就職活動をするのはなかなかキツいと思ったけれど。そのまま働かせてくれるなら、悪い話ではないのかも?
でも、1年間恋人を演じた人のそばでそのまま働き続けるのってどうなんだろう。この人と気まずくなるのかな。そもそも元カノ?が同じ会社にいるのは、この人と結婚する相手が嫌がるよね。
…その前に、その頃には私も父にお見合いをすすめられているのかも。そうなると、私も寿退社することになるのかな。
「紗良」
穏やかな声が鼓膜を揺らす。返事はせず、九条さんに視線を向ければ、春の風が彼の黒髪を揺らしていた。
「恋人って言っても、俺のこと好きにならなくていいから」
「……」
「紗良の1年を、俺にくれる?」
今日出会ったばかりの、専務と名乗る怪しい男。
明らかにぶっ飛んだ思考と、無理な要求。
秘書経験もなければ、お互い気持ちがないのに恋人になるなんて。
普通の人間なら100%断るだろう。
でももしここで頷けば、私の人生は大きく変わる気がした。この人に振り回されるのも悪くないかも、なんて思ってしまった。
楽観的なのは、私の方なのかもしれない。