転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「てかその話、白鳥さんが九条(うち)の社内で喋ってたってこと?」

「はい。アポもなく白鳥さんが会社に訪れた時があって、専務が席を外した隙に応接室でコソコソと…」

「あーあの時か。普通そんなとこでその話するか?普通にアホだろ」


小山さんが珍しく悪態をつくから、思わず目を見開けば「あ、ごめん。俺白鳥さん嫌いなんだよね」とさらりと放った彼は「てかあの睫毛どうなってんの?」とクスクス笑った。


「…でもやっぱり、専務が白鳥さんと結婚する可能性は高いってことですかね」

「どうだろうなー。俺は松陰寺さんじゃないかと思うんだけどな。まぁこれはほぼ俺の願望だけど」


松陰寺さん。確かに他の人に比べたら、中身はマシに見えるけど。松陰寺さんが彼の隣に立つのを想像すると…驚くほどしっくりこない。失礼だけど、私の方が似合ってる自信がある。


「S社自体はまだそんなに大きくないんだけど最近伸びてきていて、でも跡取りがいないらしくて。恐らく、松陰寺さんと結婚したら後々逸が代表になるんじゃないかな」

「…なるほど」

「目黒さんは、会社はデカいけど言わずもがな性格がキツいし、白鳥は最近傾きかけてるって噂を聞いた。だから九条を手に入れるために必死になってんだと思う」

「え、でもこないだ大口クライアントのリストを持って来たみたいですよ。傾きかけてるっていうのは本当の話なんですかね」

「今はかろうじて繋がってるってとこばっかなんだろ。てか逸のコミュ力やばいから、わざわざ白鳥と政略結婚なんかしなくても、そういうとことも簡単に繋がれると思う」

「そっか、そうですよね。少し安心しました」

「それにうちの社長は松陰寺の社長とも仲がいいみたいだしな。だから松陰寺さんかなーって思ってるけど…まぁでも、俺は逸に政略結婚なんてして欲しくない」

「えっ、」


最後に付けたされた言葉に思わず反応してしまったのは、私と同じ気持ちの人がいて素直に嬉しかったから。


「それは、どうしてですか…?」


控えめに尋ねる私に、ゆっくりと視線を移した小山さん。その目が何か訴えかけている気がしたけれど、少し沈黙が続いたあと漸く口を開いた彼から出てきたのは「何となく」の一言だった。

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