転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…でも社内の皆は、きっと専務の政略結婚を楽しみにしているんでしょうね」
自分で言って、切なくなる。逸生さんが三人の中の誰かと結ばれて、周りに祝福されるのを想像しただけで胸が痛い。
彼の幸せを願っているはずなのに。矛盾している自分、ほんと最低だ。
「私、ずっと不思議に思っていることがあるんですけど、どうして副社長ではなく専務が政略結婚するんですか。副社長もまだご結婚されていないですよね?」
「そうだな、そこは俺も不思議に思ってるけど、副社長は無愛想でコミュ力ないし、経営に専念したいんじゃない?」
「…難しい人なんですね。でもそういう人こそ政略結婚しそうなのに」
「確かにな。まぁなんだかんだ理由つけて、社長も逸を縛り付けておきたいのかも」
九条家を、知れば知るほど分からなくなる。
結局社長は逸生さんの才能を認めているということなのかな。私の父と祖父みたいに、歳を取ってから分かり合えたりするのだろうか。
「てか、岬さんはいいの?」
「……え?」
唐突な質問に、弾かれたように顔を上げれば、射抜くような目で私を見ている小山さんと視線が重なった。
「このままでいいの?逸、本当に結婚しちゃうよ」
小山さんの質問の意図が汲み取れずぽかんと固まる私に、彼は続けて口を開く。
「逸のこと、好きだよな?」
「……」
「…あれ、違った?」
何も反応しない私を見て、小山さんの目が不安げに揺れる。けれど、すぐに返事が出来ない時点で、それはもう肯定しているようなものだった。