転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


珍しく機嫌が悪い逸生さんを見て焦る私とは反対に、小山さんは「おーこわ」と呟きながらケラケラと笑っている。

そんな小山さんを見て、更に眉間に深い皺を作った逸生さんに慌てて「専務」と声を掛ければ、隣からつんつんと肩を叩いてきた小山さんに「呼び方、違うよ」と耳打ちされ、思わず息を呑んだ。

呼び方って…さっきのだよね?このタイミングでいいのかな。めちゃくちゃ不機嫌だけど怒られない?

そう思いながらも意を決して口を開いた私は


「い…いっくん」


と小さく放てば、今にも小山さんに殴りかかりそうだった逸生さんの動きがピタリと止まった。


「……え、今なんて」

「いっくん、何を飲みますか?お疲れだと思うので、とりあえず椅子に掛けてください」

「…ごめん、もう1回言って」

「椅子に掛けてください」

「違う、その前」

「…いっくん?」

「もう1回」

「いっくん」


顔が火照る。逸生さんが何度も言わせるからめちゃくちゃ恥ずかしい。素面だったら、多分無理だった。

思わず俯く私を余所に、小山さんは思いっきり笑いを堪えているのが分かる。絶対面白がっている彼を見て、なんだか少し騙された気分になった。

ちなみに逸生さんはというと、額に手の甲を乗せ天を仰いでいる。

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