転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「専務……いっくん、大丈夫ですか?もしかして頭痛でも…」
「まじで、ここがマンションだったら仙人引退してた。可愛すぎて無理」
「え?」
ハッキリと聞き取れず首を傾げる私とは反対に、小山さんは「ぶっ」と思いっきり吹き出して笑う。それを見た逸生さんはまた小山さんをギロリと睨むと「紗良、もう帰ろう」と腰を下ろすことなくそう放った。
「え、でも専務も1杯くらい…」
「車で来たからどっちにしろ飲めない。てかこれ以上紗良が小山といたら、変なバイ菌うつされそう」
「言うことが小学生みたいだな」
「あ?」
小山さんの一言でまた機嫌を悪くした逸生さんは、お札を数枚テーブルの上に置いて「お前腹立つから置いて帰る」と放ち、私の腕を掴む。
半ば強制的に立ち上がると、小山さんは「岬さん、お疲れ~」と頬杖をつきながらニコニコと手を振ってきた。
「え、小山さんも一緒に…」
「俺はもう少し飲んで帰るから。それより逸のアフターケアをお願い」
小山さんがまだ喋っているにも関わらず、逸生さんは私の腕を引いて出口に向かて歩き出す。慌てて振り返り会釈すれば、小山さんは笑顔でひらひらと手を振るだけだった。
ふたりが出ていったあと、店のドアを見つめながら小さく溜息をつく。
「…離れられそうにないのは、逸の方かもな」
もう二度と、逸の苦しむ姿は見たくないのに…。
どうにかしてあのふたりが結ばれる方法がないのだろうか。