転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「…私が他の男性といたら、必ず嫉妬しますか?」

「うん、するよ。当たり前だろ」


即答した彼に『当たり前なの?』と心の中で聞き返す。そもそもこの関係が複雑過ぎて、もう何が普通で何が違うのか分かんなくなってきた。

咄嗟に返す言葉が見付からず思わず口を噤ぐと、逸生さんもそれ以上は何も喋らなかった。それよりも車がカーブを曲がる度に頭がぐわんぐわんと揺れて、それと同時に酔いもピークに達していた。

暫く静かな時間が流れ、気付いた時にはもうマンションの前で。ゆっくりと車から降りると、足元がふらついて危うく転びそうになった。

それをすかさず支えてくれた逸生さんは「大丈夫か?」と優しい声音で尋ねてくる。心配そうに見つめてくる彼と視線が重なった瞬間、大袈裟に心臓が跳ねて、思わずその腕にしがみついた。


「いっくんは狡い」

「え?」

「どうしてそんなに優しいの」


意識が朦朧とする中、ぽつぽつと必死に言葉を紡ぐ。


「紗良、お前ちょっと酔い過ぎじゃ…」

「なんで嫉妬するの?一応恋人だから?そこに気持ちがなくても妬けるものなの?」


頭の中がぐちゃぐちゃだ。ちゃんと呂律が回っているのかも分からない。とにかく逸生さんの腕に必死に縋りついてるけれど、大好きなムスクの香りが鼻腔を擽って、それが無性に涙を誘う。

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