転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「キスはするのに、その先をしないのはやっぱ他に好きな人がいるから?それとも、いっくんから見て私ってそんなに魅力ないのかな」
訴えかけるというよりは、ほぼ独り言に近かった。
次から次へと言葉が出てきて止まらない。返事を聞く前に、矢継ぎ早に言葉を放ってしまう。
今にも意識が途切れそうな中、必死に心の声を叫んでいるのに、スッキリするどころかどんどん胸が苦しくなるのはどうしてなんだろう。
「いっく…んっ、」
再び口を開こうとしたその時、突如唇に熱が触れ、それと同時に息が苦しくなった。
キスをされているのだと気付いた直後、あまりの息苦しさに身体を離そうとしたけれど、後頭部に添えられている手がそれを許してくれなかった。
足に力が入らなくて思わずふらつくと、すかさず壁に追い詰められて再び噛み付くようなキスを落とされる。
けれど、程なくして急に身体を離した逸生さんは「歩ける?」と私の腰を抱き寄せるように支えると、ゆっくりと歩き出した。そこで初めて、今の出来事はエレベーターの中で行われていたことに気が付いた。
逸生さんに支えられながら何とか部屋の前に辿り着くと、玄関に入った途端膝から崩れ落ちるようにその場に倒れ込む。
「おい紗良、大丈夫…」
「またキスだけで終わった」
逸生さんがあんなキスするから、身体が熱い。その先を求めるように身体が疼いているのに、やっぱりいつも通りの彼に苛立ちすら覚えてしまう。