転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「もうやだ…逸生さんの好きな人って誰なんですか…」
床に突っ伏したまま、纏まらない頭の中を必死に整理して、泣きそうになりながら声を絞り出す。
逸生さんにもっと近付きたい。もう時間がないのに、またお預け。私、やっぱドMなんかじゃない。もう焦らしプレイは嫌だよ。
──ねぇ、どうして逸生さんの好きな人は私じゃないの。
「…なんで気付かねえかな」
ボソッと何か呟かれた気がしたけれど、上手く聞き取れなかった。もうこの時点で夢と現実がごちゃごちゃだった。
「とりあえずベッドに運ぶぞ」という言葉すら私の耳に入らなくて。それを最後に、私は意識を手放した。
「……このタイミングで寝る?」
ベッドの上に横たわり、すやすやと眠る紗良を見て「はぁ」と無意識に出た深い溜息は、薄暗い部屋に消えていった。
いや、寝てくれて良かったかも。あのまま紗良があの調子だったら、多分理性ぶっ飛んでた。でもさすがに酔ってるところを襲うのはヤバいから、これで良かったと思う。
それにしても、今日の紗良は、とにかく心臓に悪かった。
あの常に無表情で何事にも冷静な紗良が、ここまで取り乱すのは初めてで、正直かなり戸惑った。
小山のやつ、どんだけ飲ませたんだ?それとも、こんなことになるほど紗良が弱っていたということだろうか。
“キスはするのに、その先をしないのはやっぱ他に好きな人がいるから?それとも、いっくんから見て私ってそんなに魅力ないのかな”
さっきの、どういう意味なんだよ。これじゃまるで俺に手を出されるのを待ってるみたいだ。
…いや、そういえばキスする時もそうだった。
紗良の方が俺なんかよりずっと積極的で、なんか俺、かなりだせーな。