転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「あいつ、秘書が必要なほど仕事あんの?」
すぐに私から視線を逸らした副社長は、こちらに向かって歩いて来たかと思うと、そのまま隣の自販機の前に立ち、手に持っていたスマホをかざして1本の缶コーヒーを購入する。
「君もよくあんなだらしない男についていこうと思うよな」
「……」
「顔がいいから?それとも口説かれたか?あいつ、口だけは上手いもんな」
淡々と言葉を紡いだ彼は、自販機から缶コーヒーを取り出し、横目で私を捉えると「君もあの男の被害者か…可哀想な女」とボソッ呟いた。
さっきからこの人は何を言っているのだろう。
逸生さんがだらしないって何?君もあの男の被害者ってどういうこと?
副社長がどうして私にそんな言葉をぶつけてくるのかは分からないけれど、彼の目に映る逸生さんがあまりいいものではないのはひしひしと伝わってくる。
それと同時に、彼は逸生さんの今までの苦労や努力を、何一つ理解していないことに気が付いて、怒りのような感情が込み上げてきた。
「…仰っていることの意味が、よく分からないのですが」
「え、もしかして洗脳でもされてんの?」
いちいち鼻につく言葉を並べる彼に、思わず眉がぴくりと反応する。なんとか平常心を保つも、心の中では今すぐにでも殴りかかりたくなるほどイラついていた。
どうしてそんなにも逸生さんを敵視するの。親に可愛がられて、何の苦労もなく育ってきたであろう人が、どうして簡単に逸生さんを傷付けるようなことをするの。
逸生さんがあなたに、一体何をしたって言うの。