転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「まぁ君はいいよな。嫌なら会社を辞めればいいんだし。そうなったらあいつのこともすぐに忘れるんだろ?所詮みんなその程度なんだよ」
「……」
「大した男でもないのに、どいつもこいつも必死にアピールしてて虫唾が走る。てかあんな男、さっさと切り捨てればよかったのに」
ねぇ、あなたはいま誰に向かって言葉を発しているの?
目の前の副社長は私の目を見ているはずなのに、まるで他の誰かと会話をしているような彼に違和感を覚える。
だって、さっきから言葉の節々に棘はあるものの、遠回しに私を庇うような発言をしたり、そもそも初めて会話する私に対して色々と愚痴を零し過ぎな気がする。
それに周りから聞いていた副社長のイメージは“出来のいい息子”“優秀”“寡黙”といった、コミュニケーションをとること以外は完璧にこなす、クールな感じだったのに。
今私の目の前にいる彼は、どこか焦っているようで余裕を感じられない。時折苦しそうな表情を見せるから、余計に混乱する。
それがまるで誰かに助けを求めているようにも見えて、逸生さんを責めているはずのその言葉に言い返すことが出来なかった。
「…副社長」
「まぁとりあえず、いくら君があの男を想っても、この件に関しては君の出る幕はない。住む世界が違いすぎる」
突然ピシャリと遮断してきた彼は、飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に突っ込んだ。