転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
02.同棲開始
「……やば」
謎の契約を交わした次の日の夜。私の住むアパートまで迎えに来てくれた九条さんの車は外車のセダンで、車に疎い私でも知っているほどの高級車だった。
高そうなレザーシートに身を預け、向かった先は、とある駅のすぐそばにあるタワーマンション。
どうやら彼は、外観からして高級感溢れるこのマンションに住んでいるらしい。あまりの衝撃に、目の前で高くそびえ立つ建物を呆然と見上げた。
「さ、入ろう。こっち」
後ろからやって来た九条さんは、立ち尽くす私の背中を優しく押しながらエントランスへ向かう。そんな彼は仕事帰りなのか、昨日のパーカー姿とは違い、これまた高そうなスーツを着ていた。
その袖から覗く腕時計も、恐らく高級品。この人、“本物の専務”だ。
「私、本当にこんなところに住んでも大丈夫ですか。場違いな気がします」
「大丈夫。部屋なら余ってるから」
そういう事を言っているわけじゃないです。そう突っ込もうとしたけれど、喉まで出かかった言葉は慌てて飲み込んだ。
だって、こんな高級マンション、きっと私みたいな凡人が騒いでいい場所ではないから。