転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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「逸生さん、出張の準備はできました?」
「うん、大丈夫」
「忘れ物はないですか?私は届けられないので、よくチェックしておいてくださいね」
「もし何かあったらその辺で適当に買うし、なんとかなるだろ」
紗良って何気に心配性だよな、と笑う彼の横顔を、食い入るように見つめる。そんな私の熱い視線に気付いた逸生さんは「俺の顔、何か付いてる?」と頬杖をつきながら目を細めた。
ベッドの上、布団に包まりながら逸生さんを見上げて、ふと思う。お風呂上がりの、髪がセットされていない逸生さんの無防備な感じが、結構好きだと。その色気にいつも目を奪われていること、逸生さんは知らないんだろうな。
「逸生さん」
「うん?」
「私がここに来てから、本当に毎日一緒にいましたね」
暖色の照明に照らされた部屋の中、ぽつぽつと言葉を紡ぐ私に、逸生さんは「うん、そうだな」と相槌を打つ。
最初の頃は夜遅くに帰ってきていた彼だけど、最近はひとりで会食に行くことは滅多にないし、毎日必ず一緒に寝ていた。
だから2週間どころか1日離ればなれになるのも初めてで、逸生さんに出会う前の私はひとりでどうやって寝てたっけ?と思うくらいには、なんだか変な感じだ。
「わがままな俺についてきてくれる紗良はすげーよ」
「…逸生さんの隣は、居心地がいいですよ」
素直な気持ちを答えれば、逸生さんは一瞬驚いた顔を見せる。けれどまたすぐに目を細めると「俺も、紗良の隣は居心地がいいよ」と放ち、いつものように私の頬に手を伸ばしてきた。
「逸生さん、もう会えなくなるので、ゆっくりお話がしたいです」
キスされる。そう思った私は、それを遮るように先に言葉を紡ぐ。そうすれば、逸生さんはピタリと動きを止めて「なんかその言い方やだな。確かに2週間は長いけど」と苦笑した。