転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「逸生さんが社長や副社長のことを悪く言っているところを、一度も聞いたことがないからです。それにいくら会長のためと言っても、やっぱりこの会社で働こうと思ったら社長のことも尊敬していないと無理なのかなって。もし逸生さんが適当に仕事をされていたら、そうは思わなかったのかもしれないけど…逸生さんが全力でこの仕事に向き合っているのも、会社を大事にしているのも、隣で見ていてとても伝わってきたので」
「全力でって…俺、いつも動画ばっか見てんのに?」
「動画はただの暇つぶしじゃないですよね?取引先の方の趣味を事前に把握しておいて、動画でその趣味の知識を吸収していたんじゃないですか?だからどんな相手でも、必ず会話が盛り上がっていた」
「……」
「逸生さんの趣味はアプリゲームだけしかないはずなのに、やたらと色々なことに詳しいからおかしいと思ってたんです」
「言い方」
ふっと吹き出すように笑った彼は「別にアプリゲームも趣味じゃねーよ」と突っ込む。
その屈託のない笑顔に目を奪われながらも「勘違いでしたか。すみません」と返すと、逸生さんは優しく細めた目を私に向けたまま口を開いた。
「そうだな、家族のこと昔は本気で嫌いだったし、未だに許せない部分もあるけど…今なら何となく、親父や兄貴の気持ちも分かる気がするから」
「気持ち…ですか」
「俺の両親、昔から優秀だった兄貴のことしか見てなくて、子供の頃の俺はそれが悔しくて仕方がなかったんだけど。でも親父も後継者としてプレッシャー背負ってて、跡継ぎのことを考えたら、優秀な息子が必要だったんだろうなって」
私から尋ねたくせに、逸生さんが家族について語ってくれたことに、正直驚いている。彼の口から、社長の話がこんなにたくさん出てくるのは初めてだ。
きっとまたはぐらかされると思っていただけに、こうして包み隠さず語ってくれることが素直に嬉しかった。