転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…逸生さん、本当に凄いですね。ていうか、優しすぎる…」
「優しかったら喧嘩なんかしないだろ。昔はずっと眉間に皺が寄ってたらしいし」
「喧嘩は関係ないですよ。逸生さんはとにかく心が綺麗なんです。いま九条グループで真面目に働いているのが何よりの証拠じゃないですか。ほんとカッコイイ…」
「はは、めっちゃ褒めるじゃん。まぁ俺がクビになったら、俺の世話係で入った小山も道連れになるかもしれないしな。もしそうなったら一生根に持たれそうだし、真面目に働くよ。とか言って、動画しか見てないけど」
逸生さんはそう言って悪戯っぽく笑うと「あいつ面倒な男だから気をつけろよ」と、楽しそうに小言を放った。
「逸生さんから素敵なお話が聞けて心が満たされました。話してくださってありがとうございます」
「こっちこそ、なんか熱く語ってごめん。こういうのあんま人に話したことないから、なんかすげえ恥ずかしいけど…少しスッキリしたかも」
てか、紗良って何気に人のこと見てるよな。と続けた彼は、私と繋がっている手に力を込める。
その熱をしっかりと感じながら彼の瞳を見つめれば、逸生さんも私を見つめ返しながらふわりと顔を綻ばせた。
「人のことっていうか…逸生さんだから見てたんだと思います」
「…え?」
「逸生さんの責任感が強くて誠実なところ、尊敬しているので」
素直な気持ちを言葉にしながら、愛しい彼の顔を目に焼き付けるように見つめる。そうすれば、ふと逸生さんとの今までの思い出が蘇ってきた。
不思議な出会いから秘書兼恋人というちょっと変わった関係になり、そこから一緒に行ったパーティー会場やオフィスメンバー皆で乗り越えたトラブルに、逸生さんと見た夜景や花火。
ちょっとしたデートに、何度も重ねた唇。彼の匂いと体温が心地よくて、いつしか彼の腕の中が、私の心が安らぐ場所になっていた。
この約1年、とにかくいつも隣には逸生さんがいて。今までとガラリと変わった生活は、本当に楽しくて仕方がなかった。