転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
一瞬時が止まったかのように、再び静かな時間が流れた。次から次へと爆弾発言する私に、逸生さんの思考が追いついていないのが見て取れる。
明らかに動揺している彼を見て、ずきりと胸が痛んだ。それでも、一度でいいから逸生さんのそばにいたという証が欲しかった。
逸生さんを、この身体に刻みたかった。
「…ご迷惑なお願いであることは重々承知の上です。逸生さんに、他に好きな人がいらっしゃるのも分かってます。私とその気になるのが難しいかもしれませんが、でも…」
「待って紗良、ちょっといい?」
緊張からか、息付く暇もなく喋り続ける私を遮った彼は「ごめん、俺いまめちゃくちゃテンパっる」と目元に手を乗せて溜息のような深い息を吐く。
「…すみません。やっぱ無理ですよね…」
「いや、そうじゃなくて…なんかもう、自分がカッコ悪すぎて…」
そう言って再び大きな息を吐いた逸生さんは、目元に置いていた手をそっと外すと「…これ、夢じゃないよな?」といつになく不安そうな声で尋ねてくる。
それに対し「はい」と頷くと、おもむろに伸びてきた手が私の背中に回った。そのまま抱き寄せられると、すっぽりと彼の腕の中におさまってしまった。
訳が分からないまま大好きな香りに包まれて、抱き締め返すことも出来ずに固まる私に、逸生さんは耳元で「紗良」と穏やかな声を放つ。
「先に言わせてごめん」
「…え?」
私を抱き締める力が、微かに強くなった。「俺も」と短く紡いだ彼は、そっと私の顎を掬った。
熱を孕んだ瞳に私が映ったと同時、逸生さんは続けて口を開いた。
「好きだよ。ずっと好きだった」