転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「……え?」
思いもよらぬ出来事に、思わず息を呑む。だって、こんな都合のいい話があるのだろうか。
もしかしてからかわれてる?それとも、気まずくなるのを避けて仕方なく嘘をついたとか?
さすがに簡単には信じられなくて、思わず疑いの目を向けてしまう。けれど、そんな思いとは反対に、鳥肌が立つほど心が震えているのが分かる。
だって、至近距離で私を見つめる逸生さんの目が、冗談を言っているとは思えないから。いつも飄々としている彼から、珍しく緊張が伝わってくるから。
「…本当、ですか?」
「うん、ほんと」
「信じていいんですか…?」
「うん、信じて。何年も前からずっと好きだった」
再び“好き”という言葉を口にした逸生さんは、照れくさそうに微笑むと、親指で私の頬を優しく撫でる。
その指先や視線から逸生さんの気持ちが伝わってきて、身体が熱くなるのを感じた。
「何年もって…私達、そんな前から知り合ってましたっけ」
「知り合いというか…顔見知り?あの日からずっと忘れられなかった。紗良は俺の、初恋の相手」
ゆっくりと丁寧に、穏やかな声音を紡いだ彼は「まぁ紗良は覚えてないだろうな」と、眉を下げて笑う。
「ごめんなさい…いつのことなのか全く検討が…」
「仕方ないよ。小学生の頃の話だし」
「そ、そんなに昔の話なんですか?」
「うん。こないだじいちゃん家の近くの公園に行ったろ?あそこで、木に引っかかったフリスビーを取ってた紗良に声をかけたことがあって」
「公園…フリスビー…」
逸生さんのヒントを頼りに、記憶を辿る。
会長の家の近くの公園…恐らく、ゲートボールスティックを持った会長にばったり会った、あの公園のことだ。