転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

そこで昔、逸生さんが私に声をかけたってこと?そもそも私、あの公園に行ったことがあったかな。

確かに昔はよくお父さんと色々なところに足を運んでいたから、可能性はなくはない。何も考えずお父さんについて歩いていたから、一度しか行ったことがないようなところは記憶が曖昧だったりするし。

それに昔、引っかかった物を取るために木に登った記憶もある。あの公園だったのかは覚えていないけれど、逸生さんとあの公園を歩いた日、あそこに植えられている木なら登れるという話をした。

てことは…やっぱり…。


「あの頃から紗良は笑わなかったよな」

「そうですね、物心ついた時から笑わないよう言われていたので。可愛げのない子供だったと思います」

「でも、ずば抜けて美人だった。一瞬で目を奪われたのを覚えてるから」


あと、困っている人を放っておけないところも変わってないよな。そう続けた逸生さんは「あの時の紗良が今隣にいるって、なんか変な感じ」と独り言のように呟く。


「そんな無愛想な私に、逸生さんはなんて声をかけたんですか?」

「え?…っと、それは……」


急にぎこちなくなった彼は、視線を泳がせながら「言ったら引かれそう」と力なく放った。


「あ、もしかして、逸生さんのことだから優しく手を差し伸べて“下りられるか?”とか」

「……そういうのではない。まぁ俺もうろ覚えだけど、ただハッキリと覚えてんのは、俺はその時も紗良に渾身のギャグをお見舞いしたのに、クスリとも笑わなかったってこと」


待って、渾身のギャグって、もしかして…


「…それって、面白くないダジャレのことですか?」

「…え?」

「渾身のギャグ。確か、私が転生しようとした日も、逸生さんは渾身のギャグと言って全然面白くないダジャレを言いましたよね。それで思い出しました。昔、私に向かって引くほどしょうもないダジャレを言ってきた、常に喧嘩腰の男の子に会ったことがあります」

「覚え方」


ふと、あの時の男の子を思い出した。私に“おもんない”とストレートに言ってきた、私がドMだと気付かせてくれた、あの男の子だ。

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