転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「言っとくけど、我慢してたのは俺の方だから」
言われた通りにそっと視線を上げれば、唇を尖らせた彼と視線が交わる。
「この1年、どれだけ紗良に触れたかったか」
「……」
「理性を保つの、結構しんどかったんですけど?まぁ、嫌われるのがイヤで手を出せなかったっていうのもあるけど」
「…意外と臆病なんですね」
「大事にしてたって言ってほしいんだけど」
ふっと笑みを零した逸生さんは、そっと私の額にキスをする。そのままこめかみに下りた唇は、耳や頬に移動して、最後には私の唇を奪った。
「ごめん、ちょっと歯止めがきかないかも…それでもいい?」
甘く囁き、こてんと首を傾げる逸生さん。その仕草に、思わずぎゅんっと心臓が跳ねる。
歯止めなんて、かからなくていい。むしろめちゃくちゃにしてほしい。
もう他に何も考えられなくなるほど、逸生さんに溺れたい。
「大丈夫です。逸生さんでいっぱいにしてください。あ、でも私こういうの初めてなので、逸生さんに満足していただけるかは分かりませんが…」
「……え、待って。紗良初めてなんだ?」
「はい。お恥ずかしい話ですが、最後まで上手くいったことがなくて…」
明らかに動揺する彼を見て、ちくりと胸が痛んだ。
この歳で初めてって、やっぱ引くよね。それとも荷が重いのかな。
「キスと、あとそれなりに経験してるって言ってたからてっきり…」
「そういう雰囲気になったことはあるんですけど、でも色々あって、結局…。やっぱ、初めては重いですか?」
「ううん、嬉しい」
不安を抱く私を余所に、迷うことなく否定した逸生さん。優しく目を細める彼を見て、安堵からか目頭が熱くなるのを感じた。
「私も、初めてが逸生さんで嬉しいです」
「……可愛いすぎ」
ため息混じりに呟いた逸生さんは、続けて「優しくする」と耳元で囁くと、後頭部に回していた手で私を抱き寄る。
すぐに噛み付くようなキスが落ちてきて、その甘い熱に思わず吐息のような声が漏れた。