転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


私を組み敷くように体勢を変えた逸生さんは、唇を重ねたまま私の服の中に手を滑り込ませる。

その手は腰やお腹を撫でるように上へ伝っていく。逸生さんからプレゼントされたルームウェアが捲し上げられて、徐々に自分の身体が露になる。その恥ずかしさに、思わず身を捩った。

しかも私の肌に触れる手つきがやけに官能的で、彼の指先が身体をなぞる度に身体がぴくんと反応してしまう。そうしながらもキスをやめない逸生さんは、舌先で器用に歯列をなぞるから、それだけで頭が真っ白になりかけて自然と甘い声が漏れた。


「…逸生、さん…」

「ん?」


誘ったのは自分なのに、いざこうなると羞恥のあまり顔が熱くなる。
息付く暇もなく降り注ぐキスも息苦しくて、勝手に出てしまう声も自分のものじゃないみたいで怖くなって、唇が離れた瞬間を狙って慌てて声をかければ、逸生さんはすぐに動きを止めた。


「どうした?」


優しい声音で囁きながら、空いた方の手で私の頭を撫でる。その手のぬくもりに少し落ち着きを取り戻した私は、ぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開けた。

ぼやける視界の先で、優しく目を細める彼と視線が重なる。「嫌だった?」と落ちてきた声は、少し不安げだった。


「ごめんなさい、全然嫌じゃないです。ちょっと、緊張しちゃって…」

「緊張してんだ。ほんと紗良は顔に出ないな。ちなみに俺もかなり緊張してる」

「逸生さんも?」

「当たり前だろ。ずっと好きだった紗良とやっと繋がれるのに、余裕なんか持てるわけねえよ」


“繋がる”
叶わない恋だと思っていた私には、その言葉がやけに胸にじんときた。気持ちも身体も、全てがひとつになることなんてこの先一生ないと思っていたから、余計に。


──私、いますごく幸せだ。

< 245 / 324 >

この作品をシェア

pagetop