転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
繋がっている最中は全てを忘れられた。逸生さんを感じている間は幸せだった。
だからこそ反動が大きい。両思いだからといって、必ずしも幸せになれるわけじゃないようだ。
「逸生さん…私、逸生さんと心も身体も繋がることが出来て、本当に幸せでした」
何を憎めばいいのかも分からない。この虚しさをぶつける場所なんてない。
逸生さんと一緒に過ごせたことも、気持ちが通じあったことも、初めてを捧げたことも。全て後悔したくはないから、あの日出会わなければよかったとも絶対に思いたくない。
ただ、好きになってはいけない人を好きになってしまっただけ。全部自分の責任なんだと、言い聞かせるしかなかった。
「やっぱり気持ちは言葉にするべきですね」
「……」
「最後に素敵な思い出をありがとうございました。もう思い残すことは何もないです」
至近距離で逸生さんを見つめながら、震える声で気持ちを伝えると、彼の表情から笑顔が消えた。
戸惑いを見せながら「…紗良?」と力なく放った彼の瞳が揺れて、私を抱き締める力が強くなったのが分かった。
「逸生さ…」
「待って、聞きたくない」
口を開こうとした私を遮った彼の声は、いつもより低かった。思わず口を噤むと、逸生さんは続けて口を開いた。
「紗良、さっきから何言ってんの。最後とか、思い残すこととか…ついさっきまでそんな雰囲気じゃなかっただろ。急にそんなこと言われても、頭がついていかないんだけど…」
今にも泣きそうな顔で、声を震わせる彼を見て、我慢していたものが一気に込み上げてきた。
途端に目頭が熱くなって、瞬きと同時に涙が頬を濡らした。
「…ごめんなさい。でも、もう無理です」
──もうひとつ、しなければいけないことが残っている。