転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


私だってそばにいたい。出来ることなら秘書として逸生さんを支えたい。

だけど逸生さんが他の人と幸せになっている姿を想像しただけで頭痛がする。逸生さんの結婚を心から祝うことなんてきっと出来ないし、そんな自分も嫌だった。


「それに元々1年で辞めて実家に帰る予定だったんです。ほら、私もお見合いがあるし」

「……」

「だから、お互い別々の人と…」


もっと強く突き放したいのに、嗚咽が漏れて言葉が出てこない。泣き顔を隠すように逸生さんの胸に顔を埋めれば、大好きなムスクの香りに包まれて、また涙が溢れた。


「…だったら、駆け落ちでもする?紗良と一緒にいるためなら、そのくらいの覚悟はあるよ」

「ばかなこと言わないでください。これ以上親子関係を拗らせてどうするんですか」


静かに放たれたのは、かなりぶっ飛んだ提案だった。即否定した私を強く抱きしめる彼は「だったら…」と再び口を開く。


「政略結婚しない。断ってくる」

「ダメです。それも絶対に拗れます」

「じゃあ会社辞めて紗良と一緒になる」

「せっかくここまで頑張ったのに、全て捨てる気ですか?そんなの私が耐えられません。それに経済力って大事なんですよ。二人揃ってニートなんてそれこそ私の父に反対されますし、会長が立ち上げた会社を大事にしている逸生さんが、私は好きなので」


その前に、逸生さんはそんな無責任なことを出来る人じゃないって分かってますから。そう言い終えたと同時、逸生さんから体を離そうとしたけれど、それは彼が許してくれなかった。

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