転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「二週間後…逸生さんが出張から戻ってくる日から有給消化でお休みをいただきたいです。逸生さんにはもう会いません」
「…紗良、」
「お願いです、私の我儘を許してください。会うと…離れられなくなるから…」
何か言いかけた逸生さんを遮って、矢継ぎ早に自分の要望を並べた。
逸生さんの頬に触れている手が震える。逸生さんの顔を最後にしっかり見ておきたいのに、涙で視界が滲む。
「…それが、紗良の出した答えなんだな」
「…はい」
「俺が今何を言っても、その気持ちは変わらない?」
「…はい」
「でも、そんな泣かれたら離せないんだけど」
次から次へと溢れる涙を、逸生さんは指でそっと拭う。その熱にまた泣けて、思わず嗚咽が漏れたけれど「ごめんなさい。でも、一緒にはいられません」と最後まで首を横に振った。
「…俺が不甲斐ないせいで、紗良に嫌な役をさせてごめん。本当は俺の一方的な片思いで終わる予定だった。俺だけが我慢すれば何事もなく終わるって。まさか紗良が俺を好きになってくれるなんて思わなかったから」
私の涙を拭いながらぽつぽつと紡ぐ逸生さんの声も、微かに震えていた。
「…俺、この会社に入ったこと、いま初めて後悔してる」
でもこの会社にいなかったら、紗良と再会出来なかったのかもな。
そう呟いた彼は、静かに一筋の涙を流した。