転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「岬さん」
突如後ろから聞こえてきた声にビクッと肩を揺らした。
弾かれたように振り返れば、そこにいたのはハンカチを目元に当てて泣いている古布鳥さんだった。
「1年間…本当にお疲れ様…っ」
目を真っ赤に腫らして労いの言葉を掛けてくれる古布鳥さんは「娘が一人暮らしを始めた時の感情に似ているわ」と涙を拭う。
「古布鳥さん独身でしたよね」
「そうだけど…でも私にとって岬さんは…っ、…娘のような存在だったのよ…っ」
恐らく抱いたことがないであろう感情を押し付けてくる古布鳥さんに首を傾げつつも、目の前であまりにも大量の涙を流すから私まで釣られそうになる。
最近涙脆いから、余計に。
「最後にこれ…ここのオフィスメンバーからプレゼントよ…」
そう言って大きな袋を渡してきた古布鳥さんは「きっと気に入ってくれると思うわ」と目を細める。その瞬間、胸がじんと熱くなるのを感じた。
まさかプレゼントを用意してくれているなんて思わなかった。ほんと、どこまで優しい人達なのだろう。
入社してたったの1年。未熟なまま急に退職すると告げたのに、ここの人達は私を責めることはなかった。それだけでも充分なのに、プレゼントまで…。
「…開けてみてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
頷いた古布鳥さんを見て、わくわくしながらリボンを解く。
「…これは」
そして中を覗いて──思わず固まった。
「前に言ってた、セクシーな下着にガーターベルト。エッチな気分になる香水に、バイアグ…」
「これ、皆さんからのプレゼントって仰いましたけど…」
「選んだのは私よ♡」
相変わらずの古布鳥さんに、思わず突っ込みそうになったけれど。何も言えなかったのは、やっぱり彼女がボロボロと涙を流していたから。
もう二度と、ここで今みたいな中身のない話が出来なくなるのかと思うと、急に寂しくなってしまった。
「それにしても岬ちゃん、専務には会わなくてよかったの?」
百合子さんが不意に放った言葉に、ドキッと心臓が跳ねた。