転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…はい、大丈夫です。専務が出張に行く前に挨拶は済ませています」
「そっか…専務、寂しくなるだろうな。よく引き止めなかったよね。まぁ急遽実家に戻らなきゃいけなくなったんだから仕方ないけど」
「…はい。すみません」
オフィスのメンバーには、辞める理由は実家に戻るからだと嘘をついた。
さすがに逸生さんのそばにはいられなくなったからとは言えないから。
「てか、もしかしてふたりだけで送別会したの?いいなー!岬ちゃん、私達とはしてくれないのに!」
あれが送別会だったのだとしたら、かなり残酷な会だと思う。最後は、涙が枯れるくらい泣いた記憶しか残っていないから。
あの後、逸生さんが深い眠りについたのを確認してから彼の部屋を出た。結局逃げるように彼の前を去ってしまったけれど、そうでもしなきゃ気持ちが揺らいで離れられなくなると思ったから。
あれから逸生さんとは連絡を取っていない。恐らく明日には帰ってくるけれど、私は入れ違うように有給消化に入るから、もう二度と会うことはない。
まぁ、あんな別れ方をしてしまったから、さすがに嫌われたと思う。たくさんお世話になったにも関わらず、何も言わず部屋を出ていったんだから、愛想を尽かされたに決まってる。
でも、それでいいと思う。
私のことなんて早く忘れた方が、もうすぐ決まる婚約者とも上手くいくはずだから。
「送別会と言われると、なんだか緊張してしまうので…お気持ちだけで充分です。また落ち着いたら、一緒に食事でも行きましょう」
「うん、分かったよ…でもそれまで毎日ラインを」
「それはちょっと…」
すかさず断りを入れると、百合子さんはまた膝から崩れ落ちて泣いてしまった。