転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「岬さん、お疲れ様」


泣き崩れる百合子さんをなだめていれば、私達の様子を静かに見守っていた小山さんが口を開いた。


「小山さん…また仕事を増やしてしまい申し訳ありません。そして大変お世話になりました。」

「気にしないで、岬さんは何も悪くないから。むしろよく頑張ってくれたよ」


号泣する百合子さんと古布鳥さんを横目で捉え、苦笑しながらあたたかい言葉をかけてくれる小山さん。

彼は唯一、私が会社を辞める理由を知っている。だからこそ、その言葉が余計に沁みた。


「…専務のこと、よろしくお願いします」


こんなこと言える立場ではないけれど、小山さんは逸生さんが心を許せる存在。もう私は逸生さんをそばで支えることは出来ないから、きっと一生彼を裏切らないであろう小山さんに深々と頭を下げたら、彼は困ったように笑いながらぽつりと何かを呟いた。


「…俺じゃ意味ないんだけどな」

「…え?」

「いや、何でもない。てか俺、実はこの二週間逸と1度も連絡とってないんだけど…会社(ここ)を辞めること、逸は納得してくれた?」


そう問われ、咄嗟に頷くことができなかった。
だって、納得してくれたのかと言われたら、恐らくそうじゃないから。


「…小山さんが背中を押してくれたお陰で、彼に自分の気持ちを伝えることが出来ました」

「え…」

「だから、納得してもらわないと困るというか…」


小山さんにしか聞こえないくらい小さな声でぽつぽつと説明すれば、彼は目を丸くして「伝えて、逸はどうだった?」と再び問いかけてくる。


「…小山さんの言う通り、喜んでくれましたよ」


敢えて“両思いでした”とは言わなかった。
逸生さんの気持ちを言いふらすのも嫌だったし、それを言うと心配をかけてしまいそうな気がしたから。

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