転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
けれど坂本さんは納得いかないのか、不服そうな顔で見下ろしてくる。
「それで岬さんは後悔しないんすか。俺には未練タラタラに見えますけど」
「…未練がないと言えば嘘になりますが、後悔はしません。これはお互いの幸せのためでもあるので」
「幸せって…」
「前にも言いましたが、これは私の一方的な片思いだったんです。そんな女がそばにいたら、専務の妻になる人は良い気がしないでしょう。少しの間でも一緒にいられただけで充分です。心配してくださってありがとうございます。でも私は本当に大丈夫ですから」
今度は彼の目を見てハッキリと紡ぐ。中途半端な気持ちでこの決断にいたった訳じゃないことを分かってほしかったから。
するとやっと気持ちが伝わったのか、彼は「…分かりました」と渋々呟くと、苦しそうな表情を浮かべたまま続けて口を開いた。
「…俺は岬さんに会えなくなるの、くそ寂しいっすよ。このまま岬さんをひとりにするのも嫌だ」
「坂本さん…」
「なぁ岬さん、俺ら友達なんすよね」
「もちろんです」
「だったら、俺の前では無理しないでください」
「……」
ここは会社だ。泣くわけにはいかない。
けれど、この二週間ひとりで耐えていた私にとって、彼の言葉はかなり胸に響いた。
「…ありがとうございます。そう言っていただけるだけで嬉しいです。坂本さんと友達になれてよかった…」
「……岬さん、ドM仲間としてまた連絡してもいいっすか」
控えめに尋ねられた言葉に、こくりと頷いた。そんな私を見て安心したように息を吐いた坂本さんは「いつでも話聞くんで、岬さんも何かあったらすぐに連絡くださいね」と、あたたかい言葉を放つ。
思わず涙腺が緩みそうになったのを何とか耐えた私が「坂本さんも」と返すと、彼は珍しく優しく目を細めた。