転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「大丈夫、って言いたいけど…ちょっと無理かも」
否定する気にもなれない。平気なふりをする余裕もない。
紗良がいないだけで、こんなにも世界が変わるものなのか。紗良に再会する前の俺は、どうやって過ごしていたっけ。1年前のことなのに、何も思い出せない。
それくらい俺にとって紗良と過ごしたこの1年は、幸せで、濃厚な時間だったらしい。
「…まぁ、そうだよな」
珍しくしおらしい小山は、煙草を燻らせながら深い溜息を吐く。そして俺も溜息混じりに吐き出した煙をぼんやりと見つめながら、紗良のことを思い出していた。
紗良がいなくなったあの日から、俺はずっと答えを探している。あの時、どうするのが正解だったんだろうって。
こうして手放してしまったことを後悔していないと言ったら嘘になるけれど、例えば無理に引き止めて繋ぎ止めることが出来てたとしても、その後に待ち受けている問題に紗良を巻き込むことになる。
一緒に立ち向かおうなんて言える立場でもないし、紗良も俺の過去は背負えないと言った。そして何より紗良の決意は固かった。
だからあの時、紗良の要求に頷くしか選択肢はなかったはずなのに…出会った時から一度も表情を崩したことがなかった紗良が、俺の前で初めて涙を見せた。
壊れそうなほど華奢な身体は、俺に縋っているようにも感じた。
本当に、紗良を手放してよかったのだろうか。
あの日から、何度も自分に問いかけているけれど。結局、答えは出ないままだ。