転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「なんか岬さんが辞めて、オフィスの雰囲気が少し暗くなった気がするよな。みんな岬さんが好きだったから…」
俺にいたっては、暗いなんてレベルの話じゃない。もはや抜け殻のようになっている。
いつかこうなることを想像して心の準備をしていた。1年間、一緒に過ごせるだけで充分だと思っていた。
けれど、予想外の紗良の告白に、俺の決意はいとも簡単に崩れてしまった。もっと早く紗良の気持ちに気付いていたら、何か未来は変わっていたのだろうか。
あの日、小さな身体が壊れそうなほど何度も身体を重ねたからか、まだ紗良の感覚が残ってる。ふとした時に、記憶が鮮やかに蘇ってくる。
時間が経てば忘れられると思ったけど、寧ろ苦しくなる一方だ。思い出す度に胸が抉られて、仕事も手につけられない。
そして何より、紗良の笑顔を見れなかったことを後悔している。一度も笑わせられなかったのに、最後に泣かせたとか最低だろ。
こうなる未来が想像出来ていたら、再会したあの日、俺は紗良に声を掛けていなかったのかもしれない。自分さえ良ければいいという考えが浅はかだった。
こんな自分が心底嫌になる。
「逸、もう会社辞めれば?」
「……え?」
無意識に深い溜息を吐いた時だった。小山の突拍子もなの発言に、思わず目を見張った。