転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…そんな無責任な」
どうせまた軽い冗談でも言っているのだろうと、苦笑しながら「それは無理だろ」と適当にあしらう。
「こんな状態で他の女と結婚して上手くいくのか?正式に婚約決まってからじゃおせーぞ」
けれど、そう続けた小山の表情は意外にも真剣で、俺に言い聞かせるような強い口調に、思わず怪訝な目を向ける。
「だから何。辞めて無職で紗良を迎えに行けって?」
それこそ迷惑だろ。鼻で笑いながら言い返せば、小山は不服そうに眉を顰めた。
なんでお前がそんな顔するんだよ。俺だって辞める覚悟くらい出来てた。でもそれをさせなかったのは紗良だ。
この会社を大事にしてる俺が好きだって言われたら、簡単に辞める訳にはいかないだろ。もし本当に俺が会社を辞めて会いに行っても、紗良のことだからきっと自分を責めるに決まってる。
「だったら俺は、逸のその魂が抜けたようなツラを一生見てなきゃいけねえの?それこそ迷惑なんだけど」
「お前なぁ…」
「あと、逸が他の女と一緒になるところを見たくない。岬さんの気持ちを知ってるからこそ、俺は素直に祝福出来ねえよ」
「…は?」
待って、何だそれ。小山は紗良の気持ち、知ってたのか?
「お前、なんでそれ…」
「岬さん、お前のことひとつも責めてなかったぞ。最後まで愚痴も吐かずに、お前のことばっか考えてた。いま一緒にいられるだけで充分だって言いながら、何をすればお前が喜ぶか悩んでて」
「……」
「お前と離れる覚悟を決めたのも、簡単じゃなかったと思う。死ぬ気で身を引いてくれたんだ。それなのに、お前が死ぬ気で立ち向かわなくてどうすんだよ」
小山の言葉が、容赦なく胸に突き刺さる。
理解していたようで出来ていなかった。紗良のためだと言い訳をして、行動もせずにここで立ち止まっていた自分が、情けない。