転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「あんな良い子、逃していいのか?今度こそ二度会えなくなるぞ」
「……」
「九条家の問題に巻き込みたくないとか言うなよ?もう既に巻き込んでんだから、最後までちゃんと守れよ」
本当にその通りだ。ぐうの音も出ない。
あの日声を掛けた時点で巻き込んでいた。泣かせた瞬間から一番に守らなきゃいけないものは決まっていたんだ。
小山の言葉で目を覚ますなんて、一生の不覚だと思う。
「…お前、俺と一緒にクビになる覚悟ある?」
小山がこの会社に入ったのは、俺の世話役みたいなものだった。もし俺が辞めたら、コイツも一緒にって可能性は無きにしも非ずだ。
煙草の火を消しながらぽつりと尋ねると、小山はゆるりと口角を上げた。
「なにそれ、お前俺のこと気にしてくれてたわけ?気持ちわりーな」
「は?別にしてねーし」
「いやほんと、そういうのありがた迷惑だから。お前が辞めてくれたらゆっくり自分の仕事に集中出来るし、もし一緒にクビになっても俺みたいな優秀な男はどこでも拾ってもらえるんだよ」
「なんか腹立つ」
けらけら笑いながらつらつらと紡ぐ小山に、軽く舌打ちする。それを見てまた勝ち誇ったような笑みを浮かべた小山は、思いっきり俺に向けて煙を吐いてきた。
不意打ちを食らいむせる俺に、小山は「なぁ逸」と口を開く。
「俺はまたお前が塞ぎ込まないか心配なんだよ」
「……」
急に真面目なトーンで話し出す小山に、思わず口を噤む。
「お前、もう十分頑張ったじゃん。若干捻くれてるけど、でも自分を犠牲にして、周りを一番に考えて行動する。思いやりがあるところが逸のいいところだけど、そろそろ自分の幸せを優先してもいいんじゃね?」
不覚にも泣きそうになった。
今まで支えてくれた人に恩返しをしたい。そのためにここまできたつもりが
結局俺は、またこの男に支えられてしまった。