転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「……お前、ほんとお人好しだよな」
「逸に言われたくねーよ」
小山はしっしと手で追い払う仕草をすると「早く行けよ」と急かす。
「社長、確か今日は一日会社にいるだろ。時間がないんだから、覚悟が出来たならさっさと行ってこい」
「…分かった」
「俺は絶対にお前の味方だから、もしボコボコにされて戻ってきても、一緒に笑ってやるわ」
「そこは慰めろよ」
「うるせーワガママ言うな」そう放ちながら俺の背中を小突く小山。再び「ほら早く」と促すと、最後に「今度焼肉奢れよ」と破顔した。
小山に背中を押され、喫煙所を後にする。
駆け足で向かう先は、もちろん社長室だ。
まだ何も解決していないけど、小山のお陰で気持ちが楽になった。何かの呪縛から解放されたみたいに心が軽い。
この廊下を歩くのも、今日が最後になるのだろうか。そう思うと、少し景色が違って見えたけど。でも不思議と寂しさはなかった。
早くに紗良に会いたい。会って俺の素直な気持ちを伝えたい。
そのためなら、今はどんな壁も乗り越えられる気がする。
もし婚約の話がなくなって、すんなりと辞められたとしても、紗良が俺についてきてくれるとは限らないけど。
それでも俺は、紗良が首を縦に振ってくれるまで何度でも会いに行こうと思う。
やっぱり俺は、誰もが惚れるらしい紗良の笑った顔が見たい。