転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「なぁ逸生」


親父との会話に割って入るように口を開いたのは、俺達のやり取りを黙って見ていた兄貴だった。


「心に決めた女って、あの秘書のことだろ?」


抑揚のない声が部屋に響く。ゆっくりと兄貴に視線を移すと、相変わらず温度を持たない瞳が俺を捉えていた。


「人事に聞いたけど、あの秘書辞めたらしいな。自ら身を引いた女をお前はわざわざ追いかけるわけ?」

「……紗良に会ったのか?まさか紗良に何か言ったんじゃ…」

「逃げられたのを俺のせいにすんのか?お前が中途半端に手を出すから悪いんだろ」

「……」

「散々迷惑かけてきたくせに、都合のいい時だけ親のスネかじって、女連れ回して。ほんといいご身分だよな。お前のこの行動がどれだけ周りを振り回してるのか分かってんのか?恩を仇で返すって、まさにこういうことを言うんだよ」


皮肉たっぷりにつらつらと紡いだ兄貴は「お前は一生変わらないんだろうな」と鼻で笑う。


「…無責任なことを言っているのは、重々承知の上だ」

「全然分かってねーよ。迷惑してんのは俺達だけじゃない。お前がその女を選んだことで、傷つく人間もいるんだぞ」

「もちろん、相手にも申し訳ないと思ってるよ。納得してもらえるまで頭を下げる覚悟も出来てる」

「そこで相手の会社との関係が切れたら、九条(うち)に大きな損害をもたらす。お前が大事にしてきた従業員にも何かしら影響は出る。その責任まで負えんのか?そんな無責任な男に追いかけられる女の身にもなってみろよ。このまま他の男と結ばれた方が幸せになれると思うぞ」

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