転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「え、待ってじいちゃん」
突如話を変えようとするじいちゃんを慌てて制す。
何も解決していない。話し合いも平行線。
じいちゃんの登場に助けられたけど、このまま話を流されるのは困る。
俺には時間がない。今すぐ政略結婚をなしにしてもらわないと、紗良を迎えに行くことが出来ないからだ。
「時間がないんだ。とりあえずこっちの話を片付けてから…」
「わしも時間がない。これから行きたいところがある。でもちょっとひとりで行くには不安でな。逸生、ついて来てくれないか」
「いやでも……」
いつも脱走して皆を困らせる爺さんが、ひとりで行くには不安なところってどこだよ。
そう心の中で突っ込みつつも、ふとさっきのじいちゃんの言葉が頭をよぎった。
“今のうちにやりたいことやりたくてだな”
“わしも時間がない”
───まさか、病気?
そう思った瞬間、血の気がサーッと引いていくのが分かった。
「逸生、ついてきてくれるか?」
その声が、弱々しく俺の耳に届いた気がした。
気付けば俺は、静かに首を縦に振っていた。