転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

だけどそれだけでは逸生さんのことは忘れられなかった。彼からもらったネックレスやルームウェアを見ては逸生さんを思い出して泣いた。

どんなに周りの人に妬まれても、くそみたいな上司にセクハラされても、昔はこんなに泣く女じゃなかったのに。私は“愛”を知ってから弱くなった気がする。

好きな人と、しかも思いあっている人と離れることが、これほどまでに苦しいとは思わなかった。実家に帰ればすぐに逸生さんに出会う前の自分に戻れる気がしたけれど、その考えは甘かったらしい。

逸生さんは元気にしているだろうか。今日はどんな動画を見てるのかな。会食続きだと身体が心配だ。また気晴らしにゲームアプリをしながら散歩してたりして。

それとも、数日後に婚約者になるであろう人と一緒にいるのかな。


こうして暇さえあれば彼のことを考えている。

忘れたくて目を閉じても瞼の裏には彼の顔が浮かんだ。最終的には夢にまで出てくるから、もうどうしようもない。


「…はぁ」


無意識に溜息をつきながら、安物の敷布団に体を沈める。逸生さんの部屋のベッドと比べると、寝心地は最悪だ。


何もする気が起きなくて、仕方なく目を閉じる。すると突如枕元に置いていたスマホから軽快な着信音が鳴り響き、肩を揺らしながらも慌てて画面を確認した。

そこに表示されている名前を見て思わずガッカリしてしまったのは、心のどこかで逸生さんからの連絡を待っているからなのかもしれない。


「──もしもし」


通話ボタンをタップして、受話口を耳に当てる。


『あ、もしもし。岬さんっすか』


電話でも相変わらず無機質な声を放つ坂本さんは、ご丁寧に『坂本です』と名乗ると、続けて『元気ですか?』と当たり障りのない言葉を放った。

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