転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


強がってみせようとしても、既にギリギリを保っている私にはもうそんな余裕なんて残っていなかった。目の前に坂本さんがいるならまだしも、声だけという環境が更に私を弱くさせた。


「…坂本さん。私はやっぱり、ドMじゃないかもしれません」


震える声でぽつりと呟いたのは、私の精一杯の弱音だった。


「焦らしプレイも、追いかけるだけの叶わない恋も、もう何もいらない。この苦しい気持ちに、あとどれくらい耐えなければいけないのでしょう。それともこれから先もっと苦しくなる?…もう、しんどくなっちゃいました」

『…岬さん……』

「こんなことで挫けて…ドM失格ですよね」


“逸生さんはお元気ですか?”

その一言が口に出来ないのも、これ以上傷付くのが嫌だからだ。

“元気じゃない”と言われたら、心配になって今よりもっと会いたくなるし、“元気”だと言われたら、政略結婚に前向きになったんだと解釈して、心臓が抉られてしまう。

でも逸生さんの様子が気になって仕方ないから、私の中から彼を消すのはもう不可能なんだと思う。

本物のドMなら、きっとこの苦しい状況も楽しんでしまうはず。でも私は早くここから抜け出したくて、ずっともがいている。


「…こんな私でも、友達でいてくれますか?」

『…だったら、俺にすればいいのに』


え?──そう声を零したと同時、今度はさっきよりハッキリと『俺にしてくださいよ』と紡いだ坂本さんは『きっと相性もいいっすよ。俺()ドMなんで』と得意げに放った。

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