転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「…ごめんなさい」
迷うことなく首を横に振ると、坂本さんは『やっぱ躊躇ないっすね』と苦笑した。
「すみません。坂本さんのお気持ちは本当に嬉しいです。でも、坂本さんとはずっと友達でいたくて…ダメですか?」
『…どうしても俺は専務を超えられないってことっすね。まぁ分かってましたけど』
「ごめんなさい…」
『でも、突き放されれば放されるほど燃えるんですけどね。ドMなんで』
そう言って坂本さんが珍しく声を出して笑うから、もしかするとお酒でも飲んでいるのかもしれない。だって、前回も酔っている時に告白されたから。
でも、そんな時でも私のことを考えて、こうして連絡をくれることは素直に嬉しかった。その分心も痛むけれど、私にとって坂本さんはかけがえのない存在であることは間違いない。
だからこそ、彼の真っ直ぐな思いに中途半端な気持ちで応えることは出来なかった。
「坂本さんが専務を超えられないっていうのは、勿論あります」
『めちゃくちゃ直球っすね』
「でも、それだけじゃないんです。私、もうすぐお見合いをする予定で」
『え?』
「いま父が張り切って相手を探してくれているみたいなんです。昨日も“いい男見付けてくるからな”って、ノリノリで言われて。だから今は、その期待に応えなきゃって思ってて…」
そう言葉にした瞬間、ハッとした。今なら逸生さんの気持ちが分かる気がするから。
期待に応えなきゃ。逸生さんもその気持ちが大きかったからこそ、望みもしない政略結婚に前向きだったのだろうなって。
最後の最後には、私のせいでその意思も崩れていたけれど。きっと今は、また前向きに着々と話を進めていることだろう。