転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
その後お互い別々にお風呂を済ませ、キャリーケースは空き部屋に置かせてもらった。
そしてリビングの隣にある寝室に足を踏み入れると、新品のキングサイズのベッドが視界に飛び込んできた。
今日から私達は、ここで一緒に寝るらしい。まだ出会って間もない人と同じ布団で寝るのは、何だか変な感じだ。
「よし、寝るか」
逸生さんが先にベッドの縁に腰掛け「おいで」と手招きしてくる。
そんな彼はスウェット姿で、セットされていた髪はペタンとしていて、雰囲気がまた違う。
お金持ちってシルクのパジャマとか着るイメージだったけど、顔がいいからなのか、スウェットもオシャレに着こなしていた。
「…失礼します」
恐る恐るベッドの上に正座をすれば、逸生さんは「そんな畏まらなくても」と笑う。
出会って間もないふたりが、同じベッドで寝るというのに。どうして逸生さんは、こんなにも余裕があるだろう。
もしかして、こういう恋人ごっこは私が初めてではなくて、今まで何度も女を取っかえ引っ変えしてきたのかな。
…まぁ、彼が今まで何をしてきたのかなんて、私には関係のないことだけれど。
「…あの、逸生さん」
「うん?」
布団に入ろうとする彼に声をかければ、逸生さんは「どうした?」と首を傾げる。その穏やかな声音は、微かに緊張している私の心を落ち着かせてくれた。