転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
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鏡に映る自分を見て、相変わらず顔だけは整っているなと心の中で呟く。そのお陰でこの日のために用意した、普段絶対選ばないような清楚感のあるワンピースもばっちり似合っていた。
「お母さん、どうかな」
リビングに降りて、バタバタと準備をしている母に声を掛ければ、振り向いた彼女は「あらやだほんと可愛い」と父に負けないほどの親バカを発揮する。
「お母さんなんて、スカートがキツくなっててショックを受けていたところよ」
「…他のはないの?」
「ないわよ。だって、まさかこんなに急だと思わなかったから」
「確かに…」
父にお見合い相手が決まったと言われてから、たったの数日しか経っていないのに、なんと今日は運命のお見合いの日だ。相手の都合なのか、それとも父が一刻も早く私にお見合いをさせたかったのか。日程は一昨日の夜、急遽決まった。
だから私は昨日急いで服を買いに行ったけれど、母は家にある服で大丈夫だろうと余裕を見せていた結果がこれだ。
私の中のお見合いは、和風なお店で振袖を着てするイメージだったけれど。どうやら今日のお見合いはレストランで行われるらしく、母は「着物ならおばあちゃんから貰ったやつがあるのに」と小言を零した。
「紗良、緊張してる?」
「……」
緊張というか、なんというか。朝から全く心が落ち着かない。ここにきて、急遽中止にならないかなって期待している自分がいる。
だって、この日が近付くごとに私の中で逸生さんが大きくなっていった。他の人と結婚すれば逸生さんを忘れられると思ったけれど、むしろ反対だった。もうこのまま一生独り身で逸生さんを思い続けた方がいいのではないかと、自分に問いかけたりもした。
私にはまだ覚悟が足りない。このままお見合いしたって、相手にも迷惑がかかってしまう。
その不安が、顔に出ていたのだろうか。
「あんた、なんなのその顔は」
母はそう言い、私の目の前まで歩いてくると「そんな顔でいたら、向こうからお断りされちゃうわよ」と眉を下げて笑った。